【現代医学的な考え方】
顔面部の痛みは、顔面の知覚を支配する三叉神経による痛みだけでなく、眼、耳、鼻、顎関節、頭蓋内の病変によっても出現します。
※注意を要するもの
〔症状〕三叉神経以外の脳神経障害を伴うもの(頭蓋内の腫瘍)
〔所見〕三叉神経領域の知覚の低下を伴うもの(症候性三叉神経痛)
●鍼灸適応となるもの●
適応となるものは特発性三叉神経痛、非定型顔面痛などであるが、症候性三叉神経痛、顎関節症、眼・耳・鼻・歯などの異常を伴う顔面痛なども、原因、程度により鍼灸治療で改善がみられる。
A)非定型顔面痛
〔病態〕原因が明らかでなく顔面片側における血管、自律神経の異常により痛みが出現するものをいう。
〔症状〕顔面の片側に三叉神経領域とは関係なく広い範囲に漠然と出現する痛みで、深在性、持続性、うずくような痛みで顔面紅潮、結膜充血、流涙、鼻汁過多などの自律神経症状を伴う。
〔所見〕知覚異常は伴わない。
〔治療方針〕血液循環、自律神経の異常を改善する目的で、疼痛部位の経穴・反応点または頸部自律神経と関連がある経穴・治療点などを選択する。
〔処方例〕顔面:四白、攅竹
頸部:人迎(頸動脈洞)、水突
※特殊部位の刺鍼として星状神経節刺鍼がおこなわれることがある。
B)特発性三叉神経痛
〔病態〕原因が明らかでなく三叉神経領域に痛みが出現するものをいう。
〔症状〕針で刺されるような激痛が突然発症し、数秒から数分間続くことが多い。発作が終われば痛みは完全に消失する。
三叉神経の主枝(1から2本)に発症しやすい。
〔所見〕
①疼痛誘発部位(トリガーゾーン)が存在する。
②特有の圧痛点が存在することが多い。
③痛み以外の神経学的所見(顔面部知覚異常など)がない。
〔治療方針〕鎮痛を目的に痛みの部位(圧痛点)を参考に治療点を選択する。
〔処方例〕
第1枝:眼窩上孔部、前頭切痕部
第2枝:眼窩下孔部(四白)
第3枝:オトガイ孔部
(2)東洋医学的な考え方
顔面痛とは、顔面の一部に起こる発作性または一時性の激しい疼痛をいう。臨床的には一側の前頭部、上顎部、下顎部に起こるものが多い。『内経』には「両頷痛」「頬痛」の記載があり、これは三叉神経痛に相当する。
〔原因〕
①風寒による顔面痛:風寒の邪が顔面部の経絡に客し、寒邪の収引性により経脈が拘急して気血の流れが悪くなると顔面痛が起る。
②肝火による顔面痛:悩み、心配事、怒りなどにより肝の疏泄機能が失調して肝鬱となり、肝鬱が改善されないために化火し、火の炎上性により顔面部に火が炎上すると顔面痛が起る。
③胃火による顔面痛:飲食不節により食滞が生じ、それが化熱または化火し陽明経脈にそって顔面部に炎上すると顔面痛が起る。また平素から辛いものを偏食していると胃熱(胃火)が生じやすく、それが陽明経脈にそって炎上すると顔面痛が起る。
④陰虚による顔面痛:陰虚のために虚火が生じ、それが顔面部に炎上すると顔面痛が起る。
〔鑑別〕
風寒によるものは、外感による悪寒、発熱、鼻汁などの症状に伴い、疼痛は冷やすと増強し温めると軽減する特徴がある。一般的に舌質は淡、脈は浮緊を呈する。肝火によるものは煩躁、怒りっぽいなどの症状を伴いやすく、胃火によるものは口渇、便秘を伴いやすい。また肝火、胃火による顔面痛の性質は、ともに灼熱性の疼痛である。さらに火により舌質は紅、舌苔は黄苔をを呈し、脈は数を呈する。
陰虚によるものは実火ではなく虚火であるために、疼痛はそれほど激しくない。陰虚であるために脈は細を呈し、虚火により脈は数を呈する。