腰痛

〔西洋医学的にみる腰痛〕

腰痛はほとんど日常的な小さな怪我や労働によるものです。しかし、まれに炎症性の病気や悪性腫瘍などの症状の原因となることもあります。

腰痛には、腹部や骨盤内の臓器の異常が原因で発生する腰痛も多く存在するため、それを考慮する必要があります。また、以下のような場合には特に注意が必要です。

  1. 時間や夜に非常に強い痛みがある場合(悪性腫瘍の可能性があります)。
  2. 生殖器や消化器などの症状がある場合(内臓性腰痛の可能性があります)。
  3. 膀胱や直腸の障害や中枢神経の症状がある場合(脊髄損傷の可能性があります)。
  4. 原因不明で運動が制限されるほどの強い痛みがある場合。

●鍼灸が適応となるもの●
鍼灸治療に適応するものは筋筋膜性腰痛や椎間関節性腰痛などですが、脊椎分離・すべり症なども適応になることがあります。

(A)筋筋膜性腰痛
〔病態〕急性のものは、急激な動作で筋筋膜に過伸展や部分断裂を生ずることによって起こります。
慢性のものは、筋疲労や組織の瘢痕化による循環障害や刺激が原因となって起こります。
〔症状〕 急性のものでは、患部に限局した痛みが強く、疼痛性の側弯のみられることもあります。主として、前屈動作の障害が強く、慢性では急性ほどの強い症状はみられません。
〔所見〕 いずれも、腎兪や志室、大腸兪付近に特徴的な限局性の圧痛や硬結がみたれる以外に、めだった所見は。ありません。

(B)椎間関節性腰痛
〔病態〕 椎間関節の障害に起因するとみられる腰痛です。
急性は、急激な動作により関節組織が損傷されることにより起こります。
慢性は、他の関節での老化変性同様の関節症性変化が椎間関節に現れることによって発症します。
〔症状・所見〕 疼痛部位と圧痛に特徴があるとされています。すなわち、疼痛は多くは下位腰椎部にあり、圧痛は椎間関節部(棘突起の高さで、正中より約2㎝外方)の深い押圧で検出されます。
脊柱の運動はいずれの方向へも困難になりますが、特に捻転と後屈が強く障害されます。

(C)変形性脊椎症
〔病態〕 40才前後から始まる脊椎の老化変性に起因するとみられる腰痛です。痛みの発生には椎間板や骨棘による刺激や、椎間関節刺激さらには筋筋膜由来など複数の因子が考えられています。
〔症状〕 腰部が重い、だるいなど漠然とした不定の腰部症状を示すことが多いです。ただし、起床時や動作開始時に腰部の痛みやこわばりがあり、それが運動と共に改善するといった特徴的な症状を示すことがあります。
〔所見〕 変形が進行すると、腰椎後弯の増強や階段現象などがみられます。

〔腰痛の治療方針〕 局所の血流改善、筋スパズムの緩解を目標に圧痛、硬結を求めて治療。
〔処方例〕 脾兪、胃兪、腎兪、志室、大腸兪

(D)根性坐骨神経痛
〔病態〕 一般に、腰椎の変性はL4~L5、L5~S1椎間板レベルの椎間孔付近で最も強く起こります。この変化によってこの部を通過する坐骨神経の神経根が障害されると、根性の坐骨神経痛がおこります。したがって、腰椎椎間板ヘルニアをはじめ、変形性脊椎症、腰部脊柱管狭窄症などのいずれもが根性坐骨神経痛の原因となります。
〔症状〕 根性坐骨神経痛の特徴的な臨床症状は、神経走行にそった下肢への放散性の痛みおよびしびれ感です。
脊柱管狭窄などにより馬尾神経に影響の及んだ場合には、これに間欠性跛行などの馬尾神経症状が加わります。
〔所見〕 神経走行に沿った圧痛のほか、知覚障害、アキレス腱反射の減弱、SLRの陽性などがみられます。
〔治療〕 障害神経根付近の循環改善および臀部や下肢の疼痛部位の鎮静を目的に、腰臀下肢の反応点を中心に取穴し、治療を加えます。
〔処方例〕腰部:〔腰痛の処方例〕参照
臀下肢:胞膏、殷門、承筋、陽陵泉、足三里

(E)梨状筋症候群
〔病態〕 椎間孔を出て仙骨神経叢を形成した神経束は、坐骨神経となって下肢に分布しますが、その経路中に坐骨結節と梨状筋の狭い間隙を通過します。梨状筋の緊張や外傷によって、この部で坐骨神経が障害されて神経痛を発症するものを梨状筋症候群といいます。
〔症状・所見〕 根性の坐骨神経痛に似たような症状を呈しますが、Kボンネットテスト陽性や梨状筋部の明白な圧痛がみられるのが特徴です。
〔治療方針〕 梨状筋の緊張を緩解させる。
〔処方例〕臀部梨状筋部

このほか、重篤な器質的障害のない内臓性腰痛なども適応となります。

(2)東洋医学的な考え方

A) 急性タイプ<気血阻滞による腰痛>
 運動の不注意により腰部の経脈、経筋を損傷すると気血阻滞が生じ、急性腰痛が起こるもの。
〔主要症状〕 不注意により突然に腰痛が起こる。局所の著明な圧痛、筋緊張、運動制限
〔治療方針〕 経脈の通りを良くし、気血の運行を改善します。
主として足太陽経穴、阿是穴を取穴し、鍼にて瀉法を施します。
〔処方例〕 腎兪、委中、環跳、大腸兪、阿是穴

B)慢性タイプ<寒温による腰痛>
 寒湿の停滞により腰部の経絡気血の流れが悪くなると起こるもの。
〔主要症状〕 腰下肢が冷えて痛む、重だるさを伴う、寒冷刺激や気候の変化により増強する、少し動くと軽減し、静止時間が長いとこわばるもの。
太陽型では疼痛は下腿後部に放散し、少陽型では下腿外側に放散。
舌苔白膩、脈沈滑または沈遅
〔治療方針〕 陽気を強めて寒湿の除去をはかり、経脈の通りを良くして気血の運行を改善します。主として足太陽経穴を取穴し、鍼灸を併用します。
〔処方例〕
太陽型:腎兪、大腸兪、環跳、委中、崑崙
少陽型:大腸兪、環跳、風市、陽陵泉、飛陽

C)慢性タイプ<腎虚による腰痛>
 腎は腰と関係があり、膝は肝と関係があるます。腎虚になると腰膝のだるさ、無力感、鈍痛がおこります。
〔主要症状〕 全身の虚弱症状が著明、慢性的な腰下肢のだるさ、無力感、鈍痛、疲れると増強し横になると軽減するもの。
脈沈細弱。
〔治療方針〕 腎を補い、経絡気血の運行を改善します。主として足太陽、足少陰経穴を取穴し、鍼にて補法を施します。必要に応じ灸を併用します。
〔処方例〕 大腸兪、環跳、委中、腎兪、太谿