はじめに:頭の中で音が響いてお悩みの方・施術者へ
「耳ではなく、頭の真ん中や後頭部、頭頂部でキーン・ジーと音が響く」
このような症状は、中医学で「頭鳴(とうめい)」や「脳鳴(のうめい)」と呼ばれます。
耳鳴りと混同されやすい症状ですが、耳鳴りが「耳の中」で鳴るのに対し、頭鳴は「耳よりも奥の頭の中」で音が鳴るのが特徴です。西洋医学でも原因の解明が難しく、比較的まれな症状とされています。
なお、脳血管障害や脳腫瘍など重大な疾患の一症状として現れることもあるため、当院では必要に応じて脳神経外科等での精査をお勧めしつつ、安全第一で中医学的なアプローチ(弁証論治)を行います。
1. 中医学からみる「頭鳴」の弁証分類と鍼灸取穴
頭鳴は、ストレス(肝)、飲食・湿気(湿熱)、加齢・過労(腎)、胃腸と精神疲労(心脾)など、さまざまな原因で発生します。
① 肝気鬱結
ストレスや抑うつによって気のめぐりが滞り、足厥陰肝経のルートを介して頭部に影響が及んだ状態です。
- 特徴・鑑別:怒ったりストレスを感じると出現・悪化する。イライラ感・精神抑鬱感・易怒・ため息が多い・胸脇部や小腹部・乳房の張りや痛みを伴う。
- 治療・取穴(すべて瀉法):太衝・支溝・陽陵泉(疏肝利気)。怒りっぽさやのぼせ(肝気の上逆)が強い場合は、風池(潜陽)を加穴。
② 湿熱阻滞
味の濃いもの・脂っこいもの・甘いものの過食やアルコール摂取、また湿度の高さによって体内に生じた「湿熱」が頭部にこもる状態です。
- 特徴・鑑別:曇天・雨天・高湿度、脂っこいもの・甘いもの・酒類の摂取で出現・悪化する。身熱不揚(熱が内にこもる)・口が粘る・口渇(冷飲を好む)・潮熱・小便短赤(尿が濃く少ない)などを伴う。
- 治療・取穴(すべて瀉法):中極・陰陵泉(清熱利湿)、豊隆・中脘(去痰降濁)、頭維(降濁)。
③ 腎精不足
加齢・過労・性生活の過剰(房事過多)などにより、頭部や脳(髄の海)を養う「腎精」が枯渇した状態です。
- 特徴・鑑別:肉体疲労・精神疲労・房事過多によって悪化する。腰膝酸軟(腰や膝のだるさ)・性欲減退・耳鳴り・難聴・脱毛・歯のぐらつきなどの腎精不足(腎気虚)症状を伴う。
- 治療・取穴(すべて補法):腎兪・太谿・関元(補腎気・精血)、風池(昇陽益気)。
④ 心脾両虚
過度の思い悩みや疲労により、胃腸(脾)の働きが落ちて気血が作れなくなり、心と脳に十分な栄養が行き届かない状態です。
- 特徴・鑑別:肉体疲労・精神疲労によって悪化する。動悸(心悸)・不眠・多夢・精神不安・便が柔らかい(大便溏薄)・食欲不振・無力感・顔色が冴えない(面色不華)などの気血両虚症状を伴う。
- 治療・取穴(すべて補法):神門・三陰交・脾兪(補心脾)、百会(昇陽)。
