「頭が小刻みに揺れていると言われた」
「自分では止めようとしているのに、頭が揺れてしまう」
「首を固定しているつもりなのに、頭が揺れる」
「緊張すると頭の揺れが強くなる」
このような症状を、東洋医学では「頭揺(とうよう)」と呼ぶことがあります。
「頭が揺れる」と一言でいっても、その原因はさまざまです。
一時的な筋肉の緊張や疲労による場合もあれば、振戦などの不随意運動、神経疾患、薬剤の影響などが関係している場合もあります。
そのため、頭が揺れる症状に対して鍼灸を行う場合には、まず現代医学的に医療機関での評価が必要な状態ではないかを確認することが大切です。
そのうえで東洋医学では、「揺れる」「震える」「痙攣する」といった症状を、「風」という病態と関連づけて考えます。
「頭揺」とは?
頭揺とは、
自分の意思とは関係なく頭が揺れる、あるいは揺れを自分で抑えられない状態
を指します。東洋医学では「頭揺」「揺頭風」などの表現があります。例えば、
- 頭が小刻みに揺れる
- 頭を左右に振るような動きが出る
- 頭が上下に揺れる
- 緊張すると揺れが強くなる
- 意識すると一時的に止められるが、再び揺れる
- 頭の揺れとめまいが一緒に起こる
などがあります。ただし、「頭が揺れる」という自覚だけで原因を決めることはできません。
頭が揺れるとき、まず確認したいこと
頭の揺れには、東洋医学的な体質だけではなく、現代医学的な原因が関係している可能性があります。例えば、
- 振戦
- 不随意運動
- 頸部の筋緊張
- 神経疾患
- 薬剤の影響
- その他の脳・神経系の疾患
などです。
特に、
突然頭が揺れ始めた
手足の震えや麻痺を伴う
ろれつが回らない
歩きにくい
意識がおかしい
強い頭痛やめまいを伴う
などの場合は、鍼灸より先に医療機関での評価が必要です。「頭が揺れる=東洋医学の『内風』」とすぐに判断しないことが重要です。
東洋医学では「風」と頭の揺れを考える
東洋医学には、
諸風掉眩、皆属於肝
という考え方があります。「風」「揺れ」「痙攣」「振戦」「めまい」などの症状は、肝との関係が深いと考えるものです。ここでいう「風」は、気象現象としての風ではありません。身体の内部で生じる病態としての「内風」を指します。内風が動くことで、
- 振戦
- 筋肉の痙攣
- めまい
- 頭の揺れ
- 手足の動き
などが起こると考えます。
頭揺の代表的なタイプ
東洋医学では、頭揺の背景にある病態をいくつかに分けて考えます。今回取り上げる代表的なものは、
①肝陽化風(肝陽上亢)
②陰虚動風
③熱極生風
④血虚生風
です。
これらをまとめて「肝風内動」という考え方で捉えることがあります。
① ストレスで揺れが強くなる「肝陽化風」
頭の揺れが比較的力強く、ストレスや精神的緊張で悪化するという場合、東洋医学では肝陽上亢から内風が生じる「肝陽化風」を考えます。
このタイプの特徴
- 頭の揺れが比較的強い
- ストレスで悪化する
- 精神的緊張で悪化する
- 身体を温めると悪化する
- 涼しい環境で軽減する
- めまい
- 頭重
- 顔面紅潮
- イライラ
- 怒りっぽい
- 頭がふらつく
などを伴うことがあります。さらに重症化した状態では、麻痺などの神経症状が出現することがあります。この場合は東洋医学的な施術を優先するのではなく、速やかな医療機関での評価が必要です。
② 慢性的に頭が揺れる「陰虚動風」
一方、頭の揺れが比較的穏やかで、慢性的に続いている場合には、陰虚動風という病態を考えます。このタイプでは、身体を滋養する陰が不足することで、肝風が内動すると考えます。
主な特徴
- 頭の揺れが比較的穏やか
- 長期間続いている
- 頬が赤くなる
- 盗汗
- 潮熱
- 手足のほてり
- 不眠
- 多夢
- めまい
などの陰虚・虚熱の症状を伴うことがあります。このタイプでは、単に「揺れを止める」ことだけを考えるのではなく、肝腎陰虚という背景を整えることが重要になります。
③ 強い熱から起こる「熱極生風」
東洋医学では、非常に強い熱が身体の内部にこもることで「風」が生じると考える場合があります。これを熱極生風といいます。
例えば、
- 高熱
- 強いめまい
- 頭痛
- 手足の痙攣
- 筋肉の強い動き
- 意識障害
などがみられることがあります。これは一般的な慢性の「頭が揺れる」という症状とは性質が異なり、緊急性のある状態を含むため、医療機関での対応が優先されます。
④ 体を養う血が不足した「血虚生風」
出血や長期間の病気などによって血が不足すると、筋や神経系を十分に滋養できず、振戦や痙攣などにつながると東洋医学では考えます。これを血虚生風といいます。
代表的な症状
- 手足の震え
- 頭の揺れ
- 手足の痙攣
- しびれ
- 関節が動かしにくい
- 目がかすむ
- 目が乾く
- 顔色が淡い・黄色っぽい
などです。この場合には、血を補うことを中心に身体全体を整えていきます。
「頭が揺れる」ときに鍼灸では何をする?
頭揺に対する鍼灸では、揺れが出ている頭部だけを治療するとは限りません。
例えば、
肝陽化風
→ 平肝潜陽・熄風
陰虚動風
→ 滋補肝腎・熄風
血虚生風
→ 補血・養肝・熄風
というように、原因となっている病態を考えて治療します。
また、頚部や肩周囲の筋緊張が頭の動きに関係している場合には、頚肩部の筋緊張を確認することも重要です。
代表的な経穴
肝陽化風
太衝・陽陵泉・風池
など。平肝潜陽・熄風を目的として使用します。
さらに腎陰虚を伴う場合には、太谿・照海などを組み合わせます。
陰虚動風
太衝・風池・復溜・太谿など。肝陽を抑え、内風を鎮めながら、腎陰を補うことを考えます。
血虚生風
血海・三陰交・太衝などを基本として、血を補い、肝血を養うことを考えます。
頭揺は「揺れ方」だけでなく全身を見る
頭揺を評価するときには、「どのくらい揺れるか」だけでなく、
- いつから始まったか
- 常にあるのか
- 緊張すると強くなるのか
- 疲れると強くなるのか
- 安静時にあるのか
- 動作時に強くなるのか
- 手足にも震えがあるのか
- めまいがあるのか
- 歩行に問題がないか
- しびれや麻痺がないか
- 薬を変更していないか
- 睡眠状態
- ストレス
- 全身の疲労
などを確認することが大切です。
鍼灸で対応できる「頭の揺れ」とは?
鍼灸では、すべての頭の揺れを治療できるわけではありません。まず必要なのは、医療機関での診断・治療が必要な疾患を見逃さないことです。そのうえで、医学的評価を受けたうえで慢性的に続く症状や、筋緊張・ストレスなどが関係する症状について、東洋医学的な体質や身体全体の状態を評価しながら鍼灸を組み合わせることがあります。
メリディアンハウスでは、頭部だけではなく、頚肩部や全身の状態を確認しながら施術方針を考えます。
【施術者向け】
頭揺の東洋医学的弁証と鍼灸治療
1.頭揺の基本概念
頭揺とは、自覚の有無を問わず頭部に不随意な揺動が生じ、自制困難となる症候です。中医では頭揺・揺頭風などと表現されます。「揺れる」「振戦」「痙攣」などの運動症状は、中医学では内風との関連が深く、
諸風掉眩、皆属於肝
という考え方から、肝との関連を重視します。ただし、これはあくまで中医学的病機論であり、現代医学的な疾患分類とは別の概念です。
2.頭揺の基本病機「肝風内動」
頭揺では、肝風内動を中心概念として整理すると理解しやすくなります。
肝風内動には、原因によって大きく、
- 熱極生風
- 肝陽化風
- 陰虚動風
- 血虚生風
があります。
重要なのは、「風がある=実証」ではないという点です。
実際には、
標=風動
本=陰虚・血虚などの虚
という虚実夾雑の状態が少なくありません。
したがって、熄風だけを行うのではなく、病因・病本への治療を同時に検討します。
3.肝陽化風
病機
肝陽上亢がさらに進行し、陽が上亢して風動を生じる病態。
鑑別
- 頭部の揺れが比較的強い
- ストレスで増悪
- 精神的緊張で増悪
- 温熱で増悪
- 冷却で軽減
- 頭重
- めまい
- 顔面紅潮
- 易怒
- 焦燥
さらに、
- 腰膝酸軟
- 五心煩熱
など腎陰虚所見を確認します。
治則
平肝潜陽・熄風・滋補肝腎
配穴例
太衝・陽陵泉・風池
+
太谿・照海
など。
4.陰虚動風
病機
肝腎陰虚を背景に、陰不足によって陽を制御できなくなり、虚風が内動すると考えます。
鑑別
- 揺れが比較的穏やか
- 慢性経過
- 頬部紅潮
- 盗汗
- 潮熱
- 五心煩熱
- 不眠
- 多夢
など。
治則
滋補肝腎・平肝潜陽・熄風
配穴例
太衝・風池
+
復溜・太谿
など。
復溜は虚熱の状態を考慮し、適切な手技を選択します。
5.熱極生風
熱極生風は、慢性的な頭揺とは区別して扱う必要があります。
特徴
- 壮熱
- 強い頭痛
- めまい
- 手足の躍動・痙攣
- 眼球上転
- 項背部の強い緊張
- 意識障害
など。
これは緊急性のある病態を含むため、鍼灸院で経過を見る対象ではありません。
現代医学的な緊急疾患を除外し、医療機関での診察を優先します。
6.血虚生風
病機
出血過多、慢性疾患などによって血虚が生じ、肝血が筋を十分に栄養できなくなることで内風が生じると考えます。
鑑別
- 振戦
- 痙攣
- しびれ
- 関節拘急
- 目のかすみ
- 目の乾燥
- 顔色淡白~萎黄
など。
治則
補血養肝・熄風
配穴例
血海・三陰交
+
太衝
など。
7.頭揺の鑑別フローチャート
施術者としては、以下の順番で整理すると臨床上使いやすくなります。
① 本当に「頭揺」なのか?
↓
頭部の不随意運動か、本人が感じる「揺れる感じ」なのか
↓
② 発症時期を確認
↓
急性か、慢性か
↓
③ 神経学的危険徴候を確認
↓
麻痺・構音障害・歩行障害・意識障害など
↓
④ 医療機関での評価が必要か判断
↓
⑤ 東洋医学的に弁証
↓
肝陽化風?
陰虚動風?
血虚生風?
熱極生風?
↓
⑥ 本虚・標実を確認
↓
⑦ 経絡・局所所見を加味
↓
配穴・刺激量を決定
この順序が重要です。
8.頭揺に対する臨床上の注意
頭揺は、頭痛や頭重と比較して、神経学的疾患との鑑別がより重要な症候です。したがって、
「頭が揺れる」
↓
「肝風だろう」
↓
「太衝・風池を刺す」
という短絡的な判断は避けるべきです。
特に、
新しく出現した不随意運動
急速に悪化する症状
手足の震えや麻痺を伴う
言語障害・歩行障害を伴う
意識状態に変化がある
といった場合には、医療機関への受診を優先します。
