「頭が痛い」といっても、その原因や痛み方は人によって大きく異なります。
こめかみがズキズキする頭痛、頭を締め付けられるような頭痛、後頭部から首にかけて重い頭痛、目の奥が痛む頭痛など、頭痛にはさまざまなタイプがあります。
さらに、頭痛の中には鍼灸でのケアが適しているものがある一方、脳や血管などの病気が隠れているため、まず医療機関での検査が必要なものもあります。
そのため、頭痛に対する鍼灸では「とりあえず首や肩をほぐす」のではなく、
①危険な頭痛ではないか
②どのタイプの頭痛なのか
③何が頭痛を誘発・悪化させているのか
④鍼灸で対応できる状態なのか
を見極めることが重要です。
この記事では、現代医学による頭痛の分類から、東洋医学・中医学による頭痛の考え方、そして鍼灸ではどのように頭痛を考えるのかを、患者さん向けにわかりやすく解説します。
頭痛とは?
頭痛とは、頭部に感じる痛みの総称です。
前頭部、こめかみ、側頭部、後頭部、頭頂部、目の奥など、痛む場所はさまざまです。
「頭が痛い」という一つの症状でも、
- ズキズキする
- 締め付けられる
- 重だるい
- 鋭く刺すように痛む
- 頭の奥が痛い
- 目の奥まで痛む
- 首や肩から頭に痛みが広がる
など、痛みの性質も異なります。
現在、頭痛は国際的な診断基準であるICHD-3(国際頭痛分類第3版)を用いて分類されています。日本頭痛学会ではICHD-3日本語版を公開しています。
頭痛には大きく2種類あります
頭痛を理解するとき、まず重要なのが、
一次性頭痛
と
二次性頭痛
の区別です。
一次性頭痛とは?
頭痛そのものが病気として存在するものです。
代表的なのが、
- 片頭痛
- 緊張型頭痛
- 群発頭痛などの三叉神経・自律神経性頭痛
です。
脳腫瘍や脳出血など、別の病気が頭痛を起こしているわけではありません。
慢性的に繰り返す頭痛の中には、この一次性頭痛に分類されるものが多くあります。
二次性頭痛とは?
別の病気や身体の異常が原因となって起こる頭痛です。
たとえば、
- 頭部外傷
- 脳血管の病気
- 脳腫瘍などの頭蓋内疾患
- 感染症
- 薬剤の使用過多
- 高山病などのホメオスタシス障害
- 目・耳・鼻・副鼻腔・歯・顎などの病気
などがあります。
ICHD-3では、一次性頭痛、二次性頭痛、有痛性脳神経ニューロパチーなどを含めて頭痛疾患が体系的に分類されています。
こんな頭痛には注意してください
すべての頭痛を鍼灸で対応できるわけではありません。
次のような頭痛がある場合は、まず医療機関への相談が重要です。
- 突然発症した非常に強い頭痛
- 今まで経験したことのない頭痛
- いつもの頭痛とは明らかに違う頭痛
- 時間とともにどんどん悪化する頭痛
- 50歳以降に初めて起こった頭痛
- 手足の麻痺やしびれ、言葉が出にくいなどの神経症状を伴う頭痛
- 意識や精神状態の変化を伴う頭痛
- 発熱や強い項部硬直などを伴う頭痛
- がんや免疫機能低下などの背景がある人に新しく出現した頭痛
- 頭部外傷後に出現した頭痛
このような場合には、鍼灸を受ける前に医療機関での評価が必要になることがあります。
「いつもの頭痛だから大丈夫」と自己判断しないことが大切です。
片頭痛と緊張型頭痛はどう違う?
片頭痛
片頭痛では、
- ズキズキする拍動性の痛み
- 片側または両側の痛み
- 吐き気
- 光がつらい
- 音がつらい
- 動くと痛みが悪化する
などがみられることがあります。
人によっては頭痛の前に、
- キラキラした光が見える
- 視野の一部が見えにくくなる
- 手足がしびれる
などの「前兆」が現れることもあります。
緊張型頭痛
緊張型頭痛では、
- 頭を締め付けられるような痛み
- 重だるい痛み
- 両側性の痛み
- 首や肩のこり
- 長時間のパソコン・スマートフォン使用
- 精神的ストレス
などが関係することがあります。
「肩がこっているから頭痛が起きている」と単純に考えたくなりますが、頭痛の診断は肩こりだけで決めるものではありません。
実際には、片頭痛と緊張型頭痛の特徴を両方持っている人もいます。
「頭痛もち」の人ほど、一度きちんと頭痛を整理しましょう
「昔から頭痛があるから」
「市販薬を飲めば治るから」
「病院に行くほどではないから」
と、頭痛をそのままにしている方は少なくありません。
しかし、月に何度も頭痛が起きる場合や、頭痛によって仕事・家事・睡眠・外出などの日常生活に支障が出ている場合には、一度頭痛のタイプを整理することをおすすめします。
特に重要なのが、
慢性片頭痛
と
薬剤の使用過多による頭痛(MOH)
です。
鎮痛薬を飲み続けている人は要注意|MOHとは?
頭痛が起こるたびに鎮痛薬を飲んでいると、
「薬を飲めば痛みが治まる」
という状態から、
「薬が切れると頭が痛くなる」
という状態へ変化していくことがあります。
これが薬剤の使用過多による頭痛(Medication-Overuse Headache:MOH)です。
以前は「薬物乱用頭痛」という名称が一般的でしたが、現在は「薬剤の使用過多による頭痛」という表現が用いられています。
MOHでは、もともと片頭痛や緊張型頭痛などの頭痛疾患を持っていることが多く、頭痛が慢性化しているように見えることがあります。
MOHを疑うポイント
- 月に15日以上頭痛がある
- 鎮痛薬を頻繁に使用している
- 頭痛が以前より増えてきた
- 薬を飲むことで一時的に楽になる
- 薬が切れると再び痛くなる
- 市販の鎮痛薬を習慣的に使用している
などです。
薬剤によって使用日数の基準が異なります。ICHD-3では、たとえば単純鎮痛薬は月15日以上、トリプタンや複合鎮痛薬などは月10日以上の使用が3か月を超える場合などが診断基準に関係します。
自己判断で薬を急に中止するのではなく、医師に相談してください。
頭痛に鍼灸はできる?
頭痛のすべてが鍼灸の対象になるわけではありません。
まず危険な二次性頭痛を除外し、必要に応じて医療機関と連携したうえで、一次性頭痛や慢性化した頭痛に対して鍼灸を検討します。
『頭痛の診療ガイドライン2021』では、片頭痛や緊張型頭痛に対する非薬物療法の一つとして鍼灸が扱われており、難治性頭痛の集学的治療における鍼灸師の役割についても記載されています。
鍼灸では、単純に「頭に鍼をする」のではありません。
例えば、
- 首・肩の筋緊張
- 後頭部の圧痛
- 頭痛が起こる頻度
- 睡眠
- ストレス
- 呼吸
- 自律神経症状
- 消化器症状
- 月経周期との関係
- 頭痛を起こす生活習慣
などを総合的に評価します。
東洋医学では頭痛をどう考える?
東洋医学では、頭部は「清陽」が上昇し、気血が十分にめぐることで正常に機能すると考えます。
その流れが乱れると頭痛が起こると考え、
「不通則痛」
つまり「通じなければ痛む」
という考え方と、
「不栄則痛」
つまり「栄養されなければ痛む」
という二つの大きな原則から頭痛を考えます。
東洋医学の頭痛は「原因」と「痛む場所」の両方を見る
東洋医学では、頭痛を単純に「頭の筋肉が硬い」と考えるのではなく、
- 外邪
- 気滞
- 血瘀
- 痰湿
- 気血不足
- 肝陽上亢
- 肝火
- 腎精不足
など、身体全体の状態から考えます。
さらに「頭のどこが痛いのか」も重要です。
後頭部・首が痛い
太陽経の頭痛として考えます。
首肩の緊張や外邪の影響などを確認します。
前額部が痛い
陽明経の頭痛として考えます。
胃腸の状態や湿邪などとの関連を考えることがあります。
こめかみ・側頭部が痛い
少陽経の頭痛として考えます。
ストレスや肝胆の気機との関係を確認します。
頭頂部が痛い
厥陰経の頭痛として考えます。
ストレス、肝気鬱結、肝火、肝陽上亢などとの関連を考えます。
痛み方からも東洋医学的な体質を考えます
| 痛みの特徴 | 東洋医学的な考え方 |
|---|---|
| 隠れるような鈍い痛み | 気血不足・虚証 |
| ズキズキ・脹る | 肝陽上亢・気滞 |
| 刺すような固定した痛み | 血瘀 |
| 重だるい頭痛 | 痰湿・湿邪 |
| 灼けるような痛み | 熱・肝火 |
| 冷えると悪化 | 風寒 |
| 湿度・雨の日に悪化 | 痰湿・風湿 |
| ストレスで悪化 | 肝気鬱結・肝陽上亢 |
もちろん、これは東洋医学的な「見立て」であり、現代医学的な診断に置き換えるものではありません。
鍼灸では「頭痛だけ」を治療しない
頭痛の患者さんを診るとき、頭だけを見ていると原因を見失うことがあります。
例えば、
「仕事が忙しくなると頭痛が増える」
という人なら、
ストレス
↓
睡眠不足
↓
呼吸が浅くなる
↓
首肩の緊張
↓
頭痛
というような悪循環が存在する可能性があります。
また、
「月経前になると頭痛が起こる」
のであれば、月経周期、睡眠、ストレス、食事、むくみなどを含めて評価します。
つまり鍼灸では、
「どこが痛いか」だけでなく、「なぜその人に、その頭痛が起こっているのか」
を考えます。
頭痛の鍼灸治療で大切なこと
頭痛に対する鍼灸では、
①危険な頭痛を見逃さない
↓
②頭痛のタイプを整理する
↓
③服薬状況を確認する
↓
④頭痛の誘因を探す
↓
⑤首・肩・頭部などの身体所見を確認する
↓
⑥全身状態を東洋医学的に評価する
↓
⑦必要に応じて医療機関と連携する
という流れが重要です。
頭痛で鍼灸を受ける前に伝えてほしいこと
施術前には、
- いつから頭痛があるか
- 週・月に何回起こるか
- どのくらい続くか
- どこが痛むか
- ズキズキするのか、締め付けるのか
- 吐き気があるか
- 光や音がつらいか
- めまいがあるか
- 首・肩こりがあるか
- 月経との関係
- 睡眠時間
- ストレス
- 飲酒
- カフェイン
- 頭痛薬を何日くらい使っているか
などを伝えてください。
特に頭痛が起きた日と、薬を飲んだ日を記録する「頭痛ダイアリー」は、頭痛のタイプや薬剤使用状況を整理するうえで役立ちます。日本頭痛学会も頭痛ダイアリーの活用を案内しています。
施術者向け|頭痛を診るときの臨床的視点
ここからは、鍼灸師・治療家など施術者向けの内容です。
1.最初から「片頭痛か緊張型頭痛か」を決めない
頭痛患者の診療では、最初から一つの病型に当てはめるのではなく、
「この患者さんには複数の頭痛が存在していないか?」
という視点が重要です。
例えば、
- 片頭痛
- 緊張型頭痛
- 頚肩部の筋緊張
- MOH
が重なっているケースがあります。
2.問診で確認したい項目
頭痛の部位
- 前頭部
- 側頭部
- 頭頂部
- 後頭部
- 眼窩周囲
- 頭部全体
痛みの性質
- 拍動性
- 圧迫感
- 締め付け
- 重だるさ
- 刺痛
- 灼痛
時間経過
- 突然発症か
- 徐々に発症したか
- 発作性か
- 持続性か
- 頻度が増加しているか
随伴症状
- 悪心
- 嘔吐
- 光過敏
- 音過敏
- めまい
- 自律神経症状
- 神経症状
誘因
- 睡眠不足
- 過眠
- ストレス
- 月経
- 飲酒
- 食事
- 天候
- 長時間のPC作業
- 頚部姿勢
服薬
- 薬剤名
- 使用日数
- 1日の服用回数
- 使用期間
- 服薬による効果
3.後頭部痛では後頭神経痛も鑑別する
後頭神経痛では、
- 後頭部の片側または両側の痛み
- 電撃痛・刺すような痛み
- 神経走行に一致した圧痛
- 感覚異常
- 頚部運動による増悪
などがみられることがあります。
この場合、頭痛として一括りにするのではなく、後頭神経の走行、後頚部筋群、頚椎周囲の状態などを確認します。
ただし、神経症状が強い場合や診断が不明確な場合には医療機関との連携を優先します。
4.MOHを見逃さない
慢性頭痛患者を診る場合、
「この人は何日頭痛があるのか?」
だけでは不十分です。
必ず、
「何日、頭痛薬を飲んでいるのか?」
を確認します。
MOHは二次性頭痛に分類されるため、慢性片頭痛や慢性緊張型頭痛として扱うだけでは不十分です。
また、鍼灸師が自己判断で薬剤の中止・減量を指示するのではなく、必要に応じて頭痛専門医・神経内科などと連携して対応します。
5.東洋医学的には「証」と「経絡」を組み合わせる
気虚
疲労すると悪化する、倦怠感、息切れ、食欲低下など。
代表穴:
- 足三里
- 陰陵泉
- 三陰交
- 中脘
- 脾兪
- 気海
- 百会
など。
血虚
頭痛に加えて、
- めまい
- 不眠
- 動悸
- 顔色不良
- 疲労
など。
代表穴:
- 中脘
- 足三里
- 三陰交
- 脾兪
- 血海
- 百会
など。
血瘀
固定性・刺痛性の頭痛、外傷後の頭痛など。
代表穴:
- 膈兪
- 三陰交
- 血海
- 合谷
- 局所圧痛点
など。
痰湿・痰濁
頭が重い、ぼんやりする、天候で悪化する、身体が重いなど。
代表穴:
- 豊隆
- 陰陵泉
- 中脘
- 足三里
- 頭維
など。
肝陽上亢・肝火
ストレスや精神的緊張で悪化する頭痛、頭頂部の脹痛、めまい、イライラ、顔面紅潮など。
代表穴:
- 太衝
- 陽陵泉
- 風池
- 行間
- 支溝
- 照海
など。
腎精不足
慢性的な頭痛、頭内の空虚感、腰膝酸軟、耳鳴り、健忘など。
代表穴:
- 腎兪
- 太谿
- 関元
- 風池
など。
6.経絡による頭痛の分類
太陽経頭痛
後頭部・後頚部。
→ 天柱、崑崙、風池、外関など。
陽明経頭痛
前額部・前頭部。
→ 頭維、合谷、足三里など。
少陽経頭痛
側頭部・耳周囲。
→ 率谷、陽陵泉、丘墟など。
厥陰経頭痛
頭頂部・眼への放散。
→ 太衝、陽陵泉、百会など。
ただし、経絡だけで治療穴を決めるのではなく、証・局所所見・全身状態を組み合わせて判断します。
頭痛治療で最も大切なのは「見極めること」
頭痛に対する鍼灸は、
「頭が痛いから頭に鍼をする」
という単純なものではありません。
大切なのは、
危険な頭痛を見逃さないこと。
そして、
頭痛のタイプ、服薬状況、身体所見、生活背景、東洋医学的な体質を総合して考えること。
頭痛は、片頭痛や緊張型頭痛だけでなく、MOH、後頭神経痛、二次性頭痛などが複雑に絡んでいることがあります。
だからこそ、
「頭痛を止める」だけではなく、「なぜ頭痛が繰り返されているのか」を一緒に考えること
が重要です。
慢性的な頭痛でお悩みの方は、まず自分の頭痛がどのようなタイプなのかを知ることから始めてみてください。
※この記事は頭痛に関する一般的な情報を提供するもので、個別の診断・治療を行うものではありません。突然の激しい頭痛、神経症状、発熱・意識障害などを伴う場合は、鍼灸より先に医療機関への相談が必要です。
参考資料
- 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修『頭痛の診療ガイドライン2021』
- 日本頭痛学会「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版」
- 日本頭痛学会「薬剤の使用過多による頭痛」
