はじめに:無意識に頭が揺れてお悩みの方・施術者へ
「無意識のうちに頭が上下左右に揺れていると言われた」
「揺れを自分の意志で止めることができない」
といった症状は、中医学で「頭揺(とうよう)」や「揺頭風(ようとうふう)」と呼ばれます。
中医学では、体が揺れる・痙攣する・震えるといった症状を「内風(体内で発生する風)」によるものと捉え、素問の病機十九条にある「諸風棹眩、皆肝に属す」の通り、すべて「肝」の機能異常と深く関係しています。
当院では、本質である「虚(不足)」と「実(過剰)」が入り混じる複雑な病態(虚実夾雑)を紐解き、過剰な風を鎮めながら不足した栄養を補う鍼灸施術を行っています。
1. 中医学からみる「頭揺」の病態と弁証分類
頭揺を引き起こす「肝風内動」は、原因によって大きく分類されます。特に臨床で多く遭遇する肝陽上亢と陰虚動風の鑑別が重要です。
① 肝陽上亢
からだの冷却水(陰)が不足することで、上衝する肝の陽気を抑えきれなくなり、激しい風(内風)が発生した状態です。
- 特徴・鑑別:頭の揺れ方は力強いことが多い。ストレスや精神的緊張、からだを温めることで増強し、涼しい環境で身体を冷やすと軽減する。
- 随伴症状:急燥・易怒・顔面紅潮・イライラ感・めまい・頭重足軽。重症化すると半身不随や顔面麻痺を伴う。根本にある「腎陰虚」の症状(腰膝酸軟・五心煩熱)を同時に呈する。
- 治療・取穴:
- 太衝・陽陵泉(瀉法):平肝潜陽(上がった気を引き降ろす)
- 風池(瀉法):熄風(風を鎮める)
- 太谿・照海(補法):補腎陰(根本の潤いを補う)
② 陰虚動風
体内の潤いや精血が著しく枯渇し、筋脈(筋肉や神経系)を養えなくなることで穏やかな風が持続的に発生している状態です。
- 特徴・鑑別:揺れ方は比較的穏やかだが、慢性的に持続する。
- 随伴症状:頬部紅潮・盗汗(手足や背中の寝汗)・潮熱・五心煩熱(手足のひらのほてり)・不眠・多夢など、腎陰虚(からだの乾燥と熱感)が主体となる。
- 治療・取穴:
- 太衝・風池(瀉法):平肝潜陽・熄風潜陽(肝腎の不調和による動風を抑制)
- 復溜(先瀉後補):清虚熱(空吹かしの熱を治める)
- 太谿(補法):補腎陰(腎の潤いを補う)
2. 【補足】肝風内動の4分類
内風による症状は、風が吹き荒れている「実」の状態に見えますが、本質は栄養不足(虚)と風(実)が混ざり合った「虚実夾雑」です。
- 熱極生風:高熱や激しい肝火(実熱)によって発生。壮熱・痙攣・意識障害などを伴う。[加穴:百会(瀉)、大椎(瀉)]
- 肝陽化風:肝陽上亢が著しく進行し、風を生じた状態。
- 陰虚動風:腎陰の枯渇による慢性的で穏やかな揺れ。
- 血虚生風:出血過多や慢性病で血(栄養)が不足し、筋脈を養えず発生。手足の痙攣・振戦・しびれ、目の乾き、顔色萎黄などを伴う。[加穴:血海(補)、三陰交(補)、太衝(瀉)]
